2004年クリスマス小説 (表のクリスマス小説の続きになります)
『Realize』 〜前編〜


蘭と恋人同士になって初めて迎えるクリスマス。
…っつっても恋人同士になったのはホンの二日前。
こんだけ『好きだ』って態度で見せていても、キスしても、この手の事に疎い蘭には言わなきゃ判らなかったらしい。

約15年の想いをやっと伝えられた。

その蘭と恋人同士になって初めて一緒に迎えるクリスマスイブ。
蘭の親友、園子の計らいでカップル限定のパーティーが開催され、蘭と一緒に参加した。
主催の園子も京極を招待して、パーティーを楽しんでいる様子だった。

会場には大きなクリスマスツリー。
ベタながらチークタイムなども盛り込まれていた。

そのパーティーで…何故か蘭は酔っ払っていた…


「園子〜、オメー蘭に何飲ませたんだよ?」
「あら〜、蘭って思ったより弱かったんだね。あのおじさんの娘だから強いのかと思ってたんだけどな〜。ドンペリピンクが手に入ったからさ、試飲と思ってね〜。」
「どこが試飲だ!結構飲んでるじゃねぇか!どうしてくれるんだよ、背負って帰れっていうのか?」
「何だったら最上階のスイート、一応押さえてあるけど?」
園子がどこか楽しそうな表情で言う。

そう、此処は園子の親父さんが経営するシティホテル。


「バーロ、まだ早ぇよ…」
「何が?わたしは酔った蘭の為に部屋を取ってあるって言ってるだけだけど?そこで新一君にナニをしろとかまで言ってないわよ?」

…この女…

「大体な〜、未成年って判ってて酒飲ませた事がバレたら、ホテルの責任も問われるんだぞ!経営者としてオメーんちのおじさんがヤバイだろーが。」
「へー、流石新一君。ご立派です事〜。」

何を言っても飄々としてやがる。

「もういい。そんなには遠くねーし、酔い覚ましがてら歩いて帰っから。」
「送り狼にならないようにね〜。」

…なんかコイツと会話してると調子が狂わされる…

オレは深い溜息を吐いて椅子に座っている蘭の所へ行く。


「蘭?歩けるか?」
「…うん〜…」
椅子に凭れてる蘭の腕を掴んで立たせようとすると、蘭は足の力が抜けてしまったのかその場に座り込んでしまった。
「おい〜…」
「ん〜立てないみたい〜…新一、おんぶ〜。」


………へ???



何言った?コイツ。

「お・ん・ぶ〜。昔は良くしてくれたでしょ〜?」

…昔っていつだよ…?
小学生の頃の事だろーが…

周りの好奇心に満ちた視線がオレに刺さる。

「ホラ、手ぇ貸してやっから、ちゃんと立てよ。」
「ケチ〜…」
オレは蘭の腕を取ると立ち上がらせた。
クラゲみたいフニャフニャしてる身体を歩かせる為、細い腰に手を回す。

…うわ、柔らけー…

ちょっとこれはやばいかも…

「忘れ物ねーな?帰るぞ?」
辛うじて平静を装いつつ、蘭のコートを蘭に着させる。
「ん…園子、バイバイ〜」
「ああ、待って、下まで一緒に行くよ!」
蘭が園子に手を振ると、園子と京極がエントランスまで見送ってくれた。
「気をつけてね?蘭。新一君、蘭を頼んだわよー!」





張り詰めたような冬の夜の空気が少し心地好い。
…しかし…こんな蒟蒻みたいになった蘭を連れて歩いているのだから、歩みは遅く、家までいつもの倍の時間を要しそうだ。
人通りの少ない路地に入った所で、オレは蘭の前にしゃがみ込んだ。
「ん?」
「ホラ、負ぶってやっから…」
蘭は数秒きょとんとした顔をしていたが、嬉しそうに笑うと、「わ〜い!」とオレの背に乗ってきた。

うわっ!

背中に柔らかい二つの膨らみを感じて、オレは焦った。

やべー…負ぶうって事は当然、オレの背中に蘭の胸が当たるワケだよな…
オレとした事が予測もしていなかったぜ…

「新一〜?ウチそっちじゃないよ〜?」
「バーロ、こんなに酔っぱらったまま帰したらおじさんに怒られちまうだろー?」
「じゃ、どこ行くの?」
「オレんち。」
「やーだー、新一やらしーっ、わたしに何する気〜?」
「なんもしねーっつーの!ワリィが酔っ払った女をどうこうしようなんて考える程腐っちゃいねーよ!」

ったくコイツ…普段はこんな事言わねークセに…
…酒ってこえーな…


「ねー、新一〜!」
「あん?」
「ホラ!雪だよ、雪ー!」
蘭の声に空を見上げると、白い物がチラチラと舞って来ていた。
「ホワイトクリスマスだね!」
蘭は子供みたいにはしゃいだ声で言う。

背中で蘭のくしゃみが聞こえた。
「寒いのか?」
「へーき。」

オレは蘭を背中から降ろすと、自分のコートを蘭に羽織らせて再び蘭を背負った。
「新一が寒いでしょ?」
「オメーが背中にひっついてっからあったけーよ。」
蘭がフフッと笑う声が背中で聞こえた。

「オメー何で今日はこんなに飲んでるんだよ?」
「んー。嬉しかったからかな?」
「何が?」
「新一とパーティーに来られたのが。」

…いつもはそんなに素直にこんな事を言わないだけに、何か…酒に感謝したい。

「雰囲気にも酔っちゃったのかな?楽しいとハイになっちゃうよね。」
「オメーは酔いすぎ。」
蘭はクスクス笑いながらオレの肩口に顔を埋めた。







「ホラ、着いたぞ?」
オレは自宅の前まで来ると、蘭を背中から降ろそうとした。が。
「…………」

…もしかして寝ちまったのか?

「蘭?」
「…………」

やっぱり返事はない。
オレは蘭を背負ったまま家の鍵をどうにか取り出してそのまま家に上がった。

どーすっかな〜?

とりあえず蘭を自分の部屋に連れて行き、ベッドに寝かせ暖房をつけてブーツを脱がせる。

…なんかこの状況はかなりヤバっぽくねーか?

自分の理性に自信が持てず、オレは早々に自室から退散する事を決めて部屋を出た。
酔ってる女をどうこうしようなんて考えるほど腐っちゃいない…けど、どうこうしようと考える前に本能が動く事もあり得る。


自分のベッドで蘭が眠ってる…そう思うだけで身体が熱くなる。
頭を冷やそうと、オレは湯を沸かし、ドリップの珈琲を淹れると、それを片手に暖房のついてない父さんの書斎に足を運んだ。
数多くある父さんの愛読書達の中から、一冊を選んで読み出す。

最初は文字の上を視線が滑るだけだったが、時間が経つにつれ、真剣に読み出した。








「そんなに面白いの?」

突然蘭の声が聞こえ、オレは吃驚して視線を上げた。
直ぐ近くに蘭が立っていた。
「オ、オメー、寝てたんじゃなかったんかよ?」
吃驚して声が上ずる。

「うん、目が覚めたら酔いも醒めたみたい。さっきから呼んでるのに、新一本に夢中で気付かないんだもん。」
ふと時計を見ると11時。
オレが書斎に入ってから1時間以上も経っていた。

「ワリ…気分とか悪くねーか?」
「へーきよ?ごめんね。迷惑とか掛けた?」
「オメーに掛けられる迷惑なんて大した迷惑でもねーよ。」
オレが本を閉じて机に置くと、蘭は両腕で自分の身体を抱くき、肩を竦めた。
「ここ、寒いね?こんな所でずっと本読んでたの?風邪ひいちゃうよ?」
「あ、ああ…それよりオメー…時間平気か?もう11時だぞ?送ってくからさ。」
蘭はちょっと間を置くとフフフッと笑った。
「お父さんね、今日はお母さんとデートなの。気を遣わせると悪いから、わたしも園子の家に泊まるって事になってるんだー。」


それはそれは随分と好都合な展開…




…じゃなくてっ!



そうなれば良いとは思いつつ、先日恋人同士になったばかりのオレ達には、早すぎる。
蘭の気持ちを、蘭の事をちゃんと大事にしたい。
欲望だけで蘭を怖がらせ、傷つけるのだけは避けたい。

「だから、新一…今日は泊めて貰ってもいいかな…?」
蘭が憂いを帯びた瞳で言う。
他意はないと判ってるのに、その瞳と言葉に心臓が跳ね上がる。

「じ…じゃ、2人でクリスマスパーティーの続きでもすっか?」
オレのセリフに蘭は一瞬眉を顰めたが、直ぐに「うん。」とにっこり笑った。


…なんだ?




リビングの暖房のスイッチを入れると、ソファに蘭を座らて珈琲を淹れる。
「あ…そうだ…忘れてた。」
「え?」
オレの呟きに蘭が訊き返す。

「ちょっと待ってろ。オレのコート、上か?」
「うん。」

オレは蘭をリビングに残し、部屋に行く。
コートのポケットから今日の為に用意した蘭へのプレゼントを取り出し、リビングに戻った。

「メリークリスマス。」
細長い箱を蘭に渡す。
「ホントはさ、パーティーの帰りに渡そうと思ってコートのポケットに入れてたんだけどな。」
「…有難う…。開けてもいい?」
言葉で答えるのも恥ずかしく、オレは小さく頷いた。

蘭の細い指によってその包みが開かれる。

蓋を開けると、蘭は「わぁ…」と溜息に似た声を上げた。
「スゴイ…綺麗…こんな細いチェーン…壊しちゃいそう。」
蘭はそれを手にとって、綺麗に微笑んだ。

蘭に似合うと思った。
特にプレゼントとか考えてはいなかったけど、たまたまそれを見つけただけ。

飾り気のない小さな宝石で花の形をあしらったネックレス。

「着けてやっから、貸せよ?」
オレは蘭の手からそれを取ると、蘭の細い首に腕を回した。

やっぱり似合う。

今日は特にドレスとまではいかなくても、パーティーの為に少しフォーマルっぽいワンピースを着ているからそのネックレスが良く映えた。


その瞬間。
理性で考えるより本能が身体を動かした。

蘭の身体を抱き締め、唇を重ねてしまっていた。
「…ん…」
蘭が小さく声を漏らして、自分のしてしまった行動に気付く。


「あ…ごめん…」
オレは蘭の身体を解放してつい謝る。


「…なんで謝るの?」
「え…?」
「謝る位ならキスなんてしないでよ…間違ったキスなんて欲しくないよ…」
そう言う蘭は……微笑っていた。
一瞬責められているのかと思ったけど、そうではないらしい。





オレもつい微笑って蘭の肩に手を置いた。

「じゃ、遠慮なく…」








オレは再び蘭の唇に自分のソレを重ねた…。









後編に続く。




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送