HOT KISS

あの日――

新一と結ばれたクリスマスから約2ヶ月。
『恋人同士』になってから初めて迎えるバレンタインデーまであと少し。
『恋人同士』って言うか…あの時、新一がプロポーズ…みたいな事言ってくれたから…こ、こ、こ『婚約者同士』…でいいのかな?

あの日以来、何だか新一の態度が優しくなって、デートの回数も増えて…それはわたしとしては凄く嬉しい事なんだけど。

…でも…あのクリスマスから新一は、わたしのカラダに一切触れてこない…
まるであの夜の事なんてなかったみたいに…


「飽きられちゃったのかな…?」
独り言のように呟いた所に、園子が「そんなワケないでしょ〜?」と呆れたような声で答えた。

お昼休みの屋上。お弁当を食べ終わって残り時間を持て余しながら、園子とフェンスに凭れて二人で遠くの町並みを眺めている。

「新一君が蘭に飽きちゃうなんて、西から太陽が昇っても有り得ないから、そんな心配は無用よ?」
園子がカラカラと笑って言う。
「…なんかあったの?」
冗談めいた園子の笑い声にも溜息で答えたわたしに、園子は少し真面目な表情で訊いてきた。
「…何もないの。何もなさ過ぎるのよ…」
「は?」
園子が訊き返した所で、フッとわたしは我に返った。

―や、やだ。わたしったら。何をそんなヘンな事言ってるのかしら。

「ご、ごめん。気にしないで?何でもないからっ!」
慌てて両手を振るわたしを園子は半眼で睨む。
「ら〜ん?そんなの気にするなって方が気になるでしょ?さ、言ってごらんなさい?園子様が相談に乗るわよ〜?」

こんな事、どんな顔して相談しろって言うの?
そんなのまるで新一に触れて欲しいって言ってるみたいで恥ずかしいよ…

「ううん、ホント何でもないの。ごめん、ヘンな事言っちゃって。」
「そう?」
園子はフェンスから手を離すと、わたしに向き合った。
「でも、本当に何か悩み事とかあるんだったら言ってよね?」
「うん…有難う。」

園子ってやっぱりわたしの事、考えてくれてるんだな…

「ところで?」
「ん?」
園子の切り返しにわたしは首を傾げた。
「バレンタインよ!蘭は何か考えてるの?」

…それなんだよね…
手作りのチョコも今まで通りだし…恋人同士になったからって言っても特別に何も思いつかない。
いっそ奮発して凄く高いチョコでもあげようかとも思ったけど…新一のお母様はあの有希子おば様だもの。
きっと昔から最高級の義理チョコとか貰っていただろうし…
プレゼントと言っても、新一が喜びそうな物って…推理小説?
全然ロマンティックじゃないわ…

「蘭はさ、ホラ…自分にリボンをかけて『わたしをあ・げ・るv』とかやってみたら?」
クネクネとしたボディランゲージまで付けて言った園子の突拍子もない思いつきに、わたしは言葉を失って赤面してしまった。
「折角恋人同士になったんだしさー、蘭の手作りチョコは毎年の事でアヤツも食べ慣れちゃってるだろうから、今年の蘭にしかできないプレゼントをするのよ!ね?」
「ね?じゃないわよ!そんな事できるワケないでしょ〜?な、何考えてるのよっ!」
「そっか〜恋愛に関しては内気な蘭には無理か。」
「そういう問題じゃありません!」
これ以上にない程に赤面して園子を怒った所で、タイミングよく昼休みの終わりを告げる予鈴が響いてきた。
「ホラ、もう教室戻らないと!」
「ん〜、でも本当に蘭にそのつもりがあるのなら、いつでもわたしをおじさんへのアリバイに利用していいからね?」
「もうっ、まだそんな事言ってるの?そのつもりはないもの。」
そう言いながら、わたしは園子の肩を押しやって校舎の方に戻って行った。

―ホントに?本当にそのつもりはないの?わたし。
新一に触れて欲しいんじゃないの?
新一のあの力強い腕に抱き締めて欲しいんじゃないの?

園子と教室に戻ると、入り口で新一にばったり会ってしまった。
「あ…しん…」
言葉が巧く出て来ない…
最近ヘンな事ばっかり考えているから…新一の顔をまともに見る事ができない。
「ん?何だ?」
突然赤くなって俯いたわたしに、新一が首を傾げて訊いてくる。
「…ううん…なんでもない。」
「そっか…?」

新一はそのまま席に戻って行った。
その後姿をつい見てしまう。

―あの見かけより広い背中に必死にしがみついて新一を受け入れた初めての夜。
2ヶ月も経っていないのに、遠い過去のように思える。
あれは…夢だったの…?

「お〜お〜。そんな熱い視線で見つめてたらダンナさん焦げちゃうぞ〜?」
園子のからかうような声に零れそうになる涙を耐えた。
「そんなんじゃない…」
涙は耐えたけど…声は泣きそうに歪んでいた。
「ら…蘭?」
「何でもない!先生来ちゃうよ?早く席着かなくちゃ。」
「…ホントに意地っ張りなんだから、蘭は。」

―ごめんね、園子。
園子の気持ちは嬉しいんだけど、こんなの恥ずかしくて相談なんてできない。
…もう…どうしたらいいんだろう…?

やりきれない想いを吐き出すように、わたしは一つ深い溜息を吐く。

新一がわたしの方を気にしてくれていた事に、この時わたしは気付いてはいなかった。







「ら〜ん?一緒に帰ろうぜ?」
部活が終わり、校門の所に差し掛かった時、聴き慣れた声に顔を上げると新一が居た。
「どうしたの?こんな時間まで。」
「いや、図書室で調べモンしてたらこんな時間になっちまってさ。図書委員に追い出された所。」
「ふ〜ん…」

新一と肩を並べて歩き出した。
立春を過ぎて10日経ったと言ってもまだまだ日の入りは早い。
もう辺りは薄暗く、街灯が灯り始めている。

「…ね、新一。明後日の13日って空いてる?」
「明後日?日曜だよな?一応暇だけど…何かあんのか?」
「バレンタイン前日でしょ?14日は学校だからその前の日。ご飯作りに行ってもいい?」


色々考えたけど、これが一番わたしらしいプレゼントだと思う。デザートにチョコを作れば充分バレンタインっぽいよね?

「ああ、さんきゅー。…オメーにさ、ちょっと訊きたい事あったんだけど、そん時でいっか…」
「何?」
「い、いや、急ぐ話でもねぇからウチ来た時でいい。」

少し心臓がドキンッと跳ね上がった。
もしかして…見透かされてるのかな…?
…わたしが新一に触れて欲しいって思ってるって事を…


明日の土曜は学校が休みだから会おうとしない限りは新一に会えない。
明後日には間違いなく会えるのに、離れたくない。
ここでさよならをしちゃったら明後日まで会えない…

「じゃーな。明後日何時に来てもいいから。」
気付いたらウチの前だった。
新一は少し遠回りになるのに、わたしを家まで送ってくれていたのだった。

今は…これで充分幸せ…だよね?
新一はあの日以来今まで以上に優しくなったし、あの熱い抱擁もプロポーズも夢なんかじゃないよね…?
「気をつけて帰ってね?」
「すぐそこだぜ?」
おどけたように笑う新一にわたしは頬を膨らませた。
「すぐそこだって何があるか判らないでしょ?人の親切を素直に受け入れなさいよねー。」
「ハイハイ。すぐそこだけど気をつけて帰ります。」
新一は片手をあげてわたしに背を向け歩き出した。

今日も触れてくれなかった。

どうしよう。わたしこんな事ばっかり考えてる。
新一の事しか考えられなくなってる。
わたし…おかしくなっちゃったみたい…

零れそうになる涙を手の甲でグイッと拭って新一の後姿が見えなくなるまで見送っていた。






ピンポーン♪

「ハイ?」
呼び鈴を押すと、新一がインターフォンを通して新一の声が返ってきた。
「…わたし。」
「ああ、早かったな?開いてるから上がって来いよ。」

玄関のドアを開けると新一が奥から顔を覗かせて、わたしの手元を見た。
「すげー荷物だな?フルコースでも作ってくれんのか?」
「チョコも一緒に作ろうと思って…ウチで作るとお父さんうるさいから。」

ホントは…着替えも入ってる。
お父さんに言ってきちゃった。

――園子の家に泊まって来るって…

こんなの…新一にヘンだと思われちゃうよね…
でも…新一に触れて欲しくて…抱き締めて欲しくて…もうどうしたらいいのか判んなくって…


「何突っ立ってんだよ?上がれって。」
「あ…うん。お邪魔します。」
わたしがそう言って靴を脱ぐと、新一は怪訝そうな顔をした。
「何?」
その表情にわたしは首を傾げる。
「いや…オメーいつもは自分ちみたいにズカズカ上がってくるのに珍しい事言ってんな〜って思ってさ。」
そう言われてハッと気付く。そ…そう言われればそうかも…
ヘンな事考えちゃってるからかな?緊張してるみたい…
「そ…そんな事ないもん。わたしだってちゃんと遠慮くらい知ってるわよっ。」
「ホラ、荷物。」
新一が笑ってわたしの手から食材の入った袋を取った。

やっぱりこういう所は以前より優しくなった気がするのに。

「ありがと…」
わたしは先を歩く新一についてパタパタとスリッパの音を立てながらキッチンに向かった。

わたしが夕飯の用意を始めると、新一は調べ物があるとかで優作おじさまの書斎に篭ってしまった。
いつもの事。
料理の匂いが家の中に漂う頃になっても、時には読み物に夢中でわたしが呼ぶまで気付かない。

「新一〜?ご飯出来たよ〜?」
書斎のドアをノックすると、新一の声が返ってきた。
「ああ、今行く。」

時間をかけて煮込んだおでんを器によそって新一が来るのを待つ。
「お、うまそー…って、バレンタインにおでんか?はんぺんの中にチョコでも入ってるんじゃねーだろーな?」
「そんなワケないでしょ?チョコは別だよ。ここんとこ毎日寒いから。…文句があるなら食べなくても良いのよ?」
「文句なんてねーって。蘭の作ったおでん美味いし。」

ヤダ。どうしよう。「蘭の作ったおでん美味いし。」って凄く嬉しい。
自分でも気付かないウチに頬が緩んじゃってた。



他愛もない話をしながら二人で食事をし、一時間の後、新一はわたしの作った料理をすっかり平らげてくれた。
食器を片付け、食後の珈琲を淹れる。
リビングのソファで本を読んでいる新一の前にあるローテーブルの上に珈琲と一緒に、さっき作ったチョコレートを置いた。
一口サイズのハート型。
シャンパングラスに可愛く盛り付けて。
「ホントにオメーこういうの器用だよな〜…すっげー美味そう。食っていい?まだ13日だけど…」
「どうぞ?甘さ控えてあるし、明日は明日で食べられるように別に取ってあるの。」
新一が一つを指先で摘んで、自分の口に入れる。

「どう…?」
ドキドキしながら新一の感想を待つ。
「うめーよ、うん。すげーうめー。」

新一はそう言って笑うと指先についたココアパウダーをペロッと舐めた。
チラッと見える赤い舌に妙にドキドキしてしまう。


ああ…新一のこんな何気ない仕草にも感じてしまってる。


「ホ…ホントに美味しい?」
自分の中に篭った熱をはぐらかそうと、わたしは新一に訊いた。
「ああ、…何?お世辞だとか思った?」
「そうじゃないけど…良かった。」
「何?味見してねーの?オメーも食ってみれば?」
そう言って新一はヒョイと摘み上げたチョコレートを一粒わたしの口の中に放り込んだ。


新一の指先がにわかにわたしの唇に触れる。
新一もそれに気付いたのか、少し慌てたように、スッと手を引いた。

何もそんなに慌てなくてもいいじゃない…自分からやったクセに…

ココロの中で少し拗ねながら、口の中に入れられたチョコレートを味わった。

「…にが…」
新一の好みに合わせて作ったチョコレートはわたしにはちょっと苦い。
「そーか?すっげ、うめーけど…」
「だって…新一の好みになるよう作ったんだもん。」
わたしがそう言うと、新一がふわっと優しい笑顔になった。


あ…あれ?さっきと随分反応が違うよ?

「そっか…さんきゅーな?」

ドキドキ。自分でもどうしていいのか判らない位に新一が好き。
新一の笑顔に。ちょっとした仕草に一喜一憂させられてる。
昔は一緒にいるだけで良かったのに。
今は抱き締めて欲しいなんて…そんなイヤらしい事ばかり考えてる。
こんな淫らな想い、新一に知られちゃったら…

「…あのさ、蘭?」


ドキン。

心なしか…新一の声が低い。

「…何?」
「あのさ…蘭はオレの事が好きなんだよな?」
突然思いもしなかった事を訊かれ、わたしは数回瞬きをした。
「え…う、うん…」
わたしは真っ赤になって俯き加減に答えた。

何?何でそんな事を訊くの?
新一もわたしを好きなんだよね?
プロポーズしてくれたよね?



「ら、蘭っ?」
涙がポロリとわたしの頬を伝った。それに驚いたのか、新一が慌てた声でわたしの名前を呼んだ。
「ご…ごめん…っ、何でもないの…」
「何でもねーなら泣かねーだろ?」

やだ…何で涙なんか…

でも一度堰を切った涙は止まらない。

言える訳ないじゃない。
新一がわたしに触れてくれないから…だなんて。
新一に抱いて欲しいから…だなんて…


不意にグイッと腕を引かれて、暖かい腕に包まれた。
気付けば新一に抱き締められている…


クリスマス以来だね。
やっと抱き締めてくれたね。

それが嬉しくて、更に涙が止まらなくなる。

「どうしたんだよ?」
「ご…ごめんね…あのね…ヘンな事言うけど…わたしの事嫌いにならない?」
新一の優しい声に、わたしは素直に言う事を決心した。
「ならねーよ。」
「た、例えば…今日、泊めて…って言ったら…新一、わたしの事…い、いやらしい女だって軽蔑する…よね?」

…言っちゃった。
ヘンに思われた?

「…するワケねーだろ?」
答えまでにちょっとの間。低くて呟くような小さい声。
やっぱりヘンだって思ってるんだ?
わたしの事いやらしいって思ってるんだ?

恐る恐る顔を上げてみた。

あれ…?
…ヘンな顔。

「新一…?」
普段の冷静な新一からは想像するに難い赤面顔。
ああやっぱりわたしがヘンな事言ったから困ってるんだ…?
「あの…ごめん、ヘンな事言っちゃったよね?…わ、わたしやっぱり帰るから…」
わたしは自分を抱き締めている新一の腕を押し退けようとしたけど、新一の腕は更に強くわたしを抱き締めてきた。
「…バーロ、帰んなっつーの。オレは今喜びを噛み締めてんだよ。オメーからそんな嬉しい事言ってくれるなんて。」

…え…?

「で、でも新一…クリスマスからずっとわたしに全然触れてくれなかったじゃない…?」
わたしが恥ずかしながらも拗ねたように言うと、新一は困ったように微笑い、軽くわたしの前髪を掻き上げた。
温かい新一の唇がそっと額に触れる。
「…ごめんな?オレさ、オメーが好きすぎて、下手に触れると止まらなくなっちまいそうで…オメーを壊しちまいそうで…抑えてたつもりだったんだけど…返って不安にさせちまったみたいだな…?」
「…え…?」
「ホントはこの2ヶ月ずっとオメーを抱きたくて…でも1回箍が外れちまったらサカリのついた動物みたいになりそうで…そんなのオメー嫌なんじゃねーかとか思ってさ…さっきもついオメーの唇に指が触れて…すげーヤバかった…」

…やだ…そんな…どうしよう?
わたしは恥ずかしくて新一の顔を直視できずに俯いた。
「え…っと…その…嫌なんかじゃ…」
嫌なワケない…新一に触れて欲しくて…新一に抱き締めて貰いたくておかしくなっちゃいそうだったんだもの…
「…じゃ、今日は遠慮しなくていいんだよな?」

悪戯っぽく微笑って言う新一に、わたしはそっと視線を上げて小さく頷いた。



新一の手に因ってわたしの衣服は一枚一枚そっとカラダから離れていく。
こんなリビングなんかでわたしも新一も生まれたままの姿になっていた。
ソファにそっとカラダを沈められ、顔中に新一のキスが降ってくる。
「ん…」
くすぐったくて肩を竦めると、新一のキスが首筋に下りてきた。
「あ…」

わたしは必死になって新一にしがみ付く。
「蘭…すげー可愛い…」
耳元で甘く響く新一のテノール。

ああ、ホントにどうしよう…
新一の声にすらこんなに感じちゃって、わたしやっぱりヘンになっちゃったんだ…
「しんいちぃ…」
どうにかなってしまいそうな自分が怖くて、新一の名前を呼びながら彼にしがみつくとと、新一が優しく口付けをくれた。
新一の舌がわたしの唇を軽くノックする。
わたしは閉じていた唇を開いて、彼の舌を招き入れた。

初めての激しいキスを交わしたクリスマスの夜の記憶を辿りながら、わたしは新一のキスに応えた。
「…ん…」
キスが濃厚になるにつれ、知らずの内に唇から甘い溜息が零れる。

絡み合う舌。
交じり合う唾液。
互いの吐息さえ逃しがたく貪る様に口付け合う。
蕩けてしまいそうな感覚。
快感に流されないように、必死に新一にしがみつく。
新一の力強い腕は、しっかりとわたしを抱き締めてくれていた。

流石に苦しくなってわたしは新一の唇から逃れる事を試みるけど、彼はそれを許してくれず、更に熱い口付けでわたしを攻め立てる。

やっと彼のくちづけに解放された時、わたしはもうグッタリとなってしまっていた。
「蘭…?」
「…ん…」


腰が砕けるってこういう感じの事を言うんだ…?


頭の片隅でそんな事をぼんやり考えながら、吐息交じりの返事を返すのが精一杯だった。
「…ワリィ、手加減できなくてさ・・・」
「…ん…へーき…」

新一の掌にわたしの胸が納められる。
「…やっ…」
カラダを走る快感に、わたしは声を上げた。
「…いや…?」
わたしの首筋に唇を落としていた新一が、顔を上げて訊いてきた。
「あ、そうじゃなくて…っ、えっと・・・」
嫌な筈がないじゃない。
でも何て言っていいのか判らない…

新一から視線を逸らして、何て答えたらいいのか考えていると、クスッと新一が笑う声が聞こえた。
「ごめん、わかってる…ちょっとからかっただけだよ。」
「…やっぱり意地悪だよね。新一。」
「オメーが可愛いからだよ…」
再び新一の唇がわたしの首筋を彷徨い出した。

新一の唇に肌を吸われ、チリッと小さな痛みを感じる。
わたしの胸を包み込んだ新一の掌が、軽く揉み解すように動いた。
時折その指先が胸の頂にある敏感な部分に悪戯に触れる。
「…ふ…ぅぅん…」

やだ…声を我慢できない…

わたしは手の甲を唇に当てて、声を出さないように耐えていた。
「蘭…なんで声我慢するんだよ…?聞かせろよ…?」
新一の手が、わたしの手首を掴んで口元から離させる。
「だって…こんな声…」
「イイ声じゃん。蘭のその声…聴きたい…」
わたしの手首を掴んだまま、新一の唇がわたしの胸の頂にチュッと軽く触れた。
「ひぁんっ!」
突然訪れた快楽にゾクッとカラダが震え、甘い声が零れる。

―やだ、こんなのわたしの声じゃないよ…


「もっと…蘭。もっと聞かせろよ…?」
ピチャッと濡れた淫らな音を立てて、新一の熱い舌に胸の飾りが捉えられた。
腰の辺りからゾクゾクと何かが全身に広がっていく。
「ひぁ…あぁん…や、しん…ちぃ…」
快楽から逃れるようと、何かに縋りたくて、わたしの胸に顔を埋めている新一の頭を抱き締めた。
「蘭の肌ってすげぇ気持ちイイ…」
新一はわたしの乳房に頬ずりをしながら、胸の頂を唇と舌を使ってじゃれつくように愛撫している。
「も…やぁ…っ」
「ヤじゃないんだろ?」
「…ばかぁ…っ」
胸への愛撫を受けながら、カラダのあちこちを彷徨う新一の手を感じていた。

執拗に胸の頂を攻められる。
片方の胸を舌で存分に愛してくれた後、律儀にもう片方の胸を丹念に攻め立てられる。
その間、空いたもう片方の胸は、指先で嬲られていた。
「あ…あぁん…ふぁぁん…っ」
抑えようとしても、甘い声が漏れ出てしまう。


新一の熱い愛撫を感じ、胸の頂に置かれた飾りが痛い程に固くなっているのが自分でも判った。
「ああ…っあん…っ」

こんなに感じちゃダメだよ…
新一に淫らな女の子って思われちゃうよ…


新一の家のソファは、一般的な物よりは大きいと思う。
でもベッドのようには広くはないソファの上では思うようには動けないのか、新一はわたしを抱き締めたままその下の絨毯の上に倒れこんだ。
全身に新一のキスを感じる。

そっと足を開かされ、新一の足がわたしの足の間に入り込んでくる。
閉じようとしても新一のカラダに阻まれて叶わない。
不意に新一の指先が、クチュッと濡れた音を立ててわたしの秘部に触れた。
「…や…っ」
ゾクンッとカラダの中心を駆け抜ける何か。
「…すげぇ…蘭…もうこんなに濡れてるぜ…?」
「やぁ…!」

恥ずかしい!
こんなに新一に感じちゃってるの、新一にバレちゃった…
淫らなわたしを知られちゃった…

恥ずかしくてポロポロと涙が溢れ出る。
「うう〜〜〜〜〜〜…っ」
泣き声は漏らさないようにと、歯を食いしばったら嗚咽となって声になる。

「蘭…泣くなよ。いいんだって、感じても…蘭が感じてくれんのすげー嬉しいんだよ…」
チュッと新一のキスが瞼に落とされる。
「オレも蘭に感じてるんだから、お互い様だろ?」
新一はわたしの手を掴んで、その熱い塊に触れさせた。
「…っ!」
わたしは吃驚して思わず手を引っ込めてしまった。


その固さをリアルに感じ、わたしは身を竦める。

でも…

…新一もわたしに感じてくれているの…?

嬉しいのと恥ずかしいのと少しの恐怖が複雑に絡んで頭が軽くパニックを起こす。
あの夜も受け入れた新一の熱い分身。
今夜も多分これから…

新一は困ったような笑みを浮かべると、もう一度わたしの瞼にキスをした。
「蘭…羞恥心なんてオレの前では捨てていいんだからさ、もっと素直に感じてくれよな…?」
「しんいちぃ…」
やだ。どうしちゃったんだろう?
舌がうまく回らない。
甘えたような声でしか喋れない…自分の声じゃないみたい…
「いいの…?わたしこの2ヶ月間、新一に抱かれる事ばっかり考えてた…こんなえっちな女の子でも…新一嫌いにならない…?」
「バーロ…何度同じ事言わせるんだよ?どこをどうしたらオレがオメーを嫌いになれるんだよ?オレは蘭がオレに感じてくれるのが嬉しいんだって。そんな事ばっかり言うなら、腰立たなくなるまで感じさせて判らせてやろうか?」
そう言ってニヤッと卑猥な笑みを浮かべる新一に、わたしは精一杯の正気をかき集めて「バカ」と呟いた。




電気も煌々とついている明るいリビングの絨毯の上で、わたしはあられもなく新一にされるがままに足を広げて、そこに彼の口での愛撫を受け入れていた。
もう恥ずかしさなんて麻痺しちゃって判らない。
ただ新一の熱い抱擁が、愛撫が心地好くて…彼を感じる事に夢中だった。
もう声だって抑えきれていない。
新一の唇が…舌が、わたしの敏感な部分に触れるたびに喉が痛くなる位に鳴かされていた。

「蘭…」
新一は口元を手の甲で拭いながら顔を上げた。
彼が拭っているのは彼の愛撫に感じて溢れ出たわたしの淫らな蜜―
その情景がまたわたしの官能を刺激して、クプリと新たな蜜が湧き出すのを感じた。

「蘭…もう我慢できねー…いいか…?」
「…ん…わたしも…」
まるで夢の中にいるようなフワフワした感覚の中で、彼の求めに応じた。

大きく足を開かされ、新一の肩に抱え上げられる。
「ん…っ」
新一の熱い塊をカラダの中心に感じて、甘く呻いた。
「はぁ…蘭…!」
新一は大きく深呼吸をすると、わたしの名前を呼んでグッと腰を進めた。

―来る…っ!

ギュッと目を瞑ってその瞬間を受け止める。
熱くなったそこに圧迫感を感じ、彼がわたしの中に入ってくるのが判った。
「ああ…ん…っ!」
新一の熱い楔に貫かれる。
「あっ、あっ、ん、あんっ!」
まるで自分の声じゃないみたいな甘い喘ぎが意識の遠くで聞こえる。
「蘭…もう少し力抜けよ…?」
新一の辛そうな声にそっと目を開けると、新一と視線がぶつかった。

ゾクッ

熱い視線に全身が感じてしまう。
カラダの奥底に電流が走る。

「ああんっ、しんいちぃ…っ!」
どうにもならない自分をどうにかしたくて、上半身を起こして新一に抱きついた。
交わる角度が変わって、よりいっそう深くカラダの奥に新一を感じる。
「ぅわ…バーロ、いきなり動くなよっ!」
「あ、あんっ、だってぇ…」
また知らない内に涙が溢れてる。
わたしがキスを求めると、新一は熱い口付けをくれた。
ガクガクと腰を動かしながら、息も苦しくなる位に貪りあう。

無意識の内にわたしは足をしっかりと新一の腰に巻きつけていた。
起こしていた上半身が再び新一に押し倒される。
これ以上にない位に大きく足を開かされ、激しく律動を繰り返す新一に必死にしがみ付く。
「ああっ、ああんっ、ふああぁんっ!し…、ぃちぃ…っ!」
「蘭…っ、蘭…!」
カラダの一番奥に新一の楔の先端が当たってる。
「しんいちぃ…もぉ…わたし…っ!」
ホントに限界が近い。
「蘭…オレも…!中に出していいか…?」
わたしは新一の問いかけに頷いた。
「や、もう…っ、ダメ…っ!やぁ…いやぁっ、ああああんんんっっっ!!!」
「蘭…っ!」
激しく突き上げられて、快楽の絶頂に達する。
思考が真っ白に染まり、カラダの奥に熱いものが広がるのを感じるのと同時に意識を手放した―







ふと目を開けると新一の優しい眼差しがわたしを見つめていた。
「ごめんな…やっぱり手加減できなかった…でもまさか気絶しちまうとは思わなかったぜ…」
絨毯の上にいた筈のわたしは、ソファの上で毛布に包まれて新一の腕の中にいた。
「大丈夫か?」
「…ん…」


ちょっと気ダルイ…
でも新一の腕が気持ち良くて、わたしは微笑んだ。


「何ニヤニヤしてんだよ?そんなに良かったのか?」
「…バカ…何言ってンのよ…こうしてるのも気持ちいいな〜って思って…」
そのまま抱き締めてくれている新一の胸に顔を埋めた。
「それよりさ、0時過ぎたんだけど…今日の分のチョコレートは?」
ムードの欠片も感じない新一の言葉に、わたしは顔を上げた。


0時って事は…やだわたし一時間以上も気を失っていたのかな?
「キッチンの配膳台の上…取って来るよ…?」
立ち上がろうとしたわたしを新一が制する。

「自分で取って来るよ。さっきまで気絶してたんだから、大人しくしてろよ?」
新一の温もりがわたしの隣から離れ、それが妙に寂しく感じた。

暫くして新一が戻ってくる。
そのままパフンッとわたしの隣に座って身を寄せた。わたしも新一の胸に頬を寄せる。


こうしてるのが凄く心地好い。

「これだろ?食っていい?」
「…もぉー、もうちょっと楽しんで食べてよねー。せっかく作ったんだから…」
「楽しんで食べるつもりだけど…」

ヒョイっとまた口の中にチョコレートを放り込まれた。
「んっ?」
何をするつもりだろうと考える間もなく、新一の唇がわたしの唇に重ねられる。
「んんんっ?」
新一の舌がわたしの口の中で這い回り、チョコレートを転がした。
散々わたしの口を貪って、やっと離してくれた頃、またわたしは全身から力を奪われてしまっていた。。
「やっぱこれが一番うめーよなー。」
「…バカ…」
「やべーな…また火がついちまったみてぇ…」
何のこと?と思うと同時に新一に抱き上げられる。
「部屋行こうぜ?バレンタインデーはまだ始まったばっかりだぜ?」




この夜わたしは新一の宣言通りに、腰が立たなくなるほどに感じさせられてしまう羽目になり、愛する人に感じる事、抱かれたいと思う事は決して恥ずかしい事ではないという事を身をもって教えられるのだった――









おはなし部屋に戻る。








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